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ispace、ミッション1の中間成果報告を発表

2023年2月28日

月着陸船は商業的に運用された宇宙機として地球から最遠部に到達、運用は後半段階へ

株式会社ispace(東京都中央区、代表取締役:袴田武史、以下ispace)は、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1の運用が後半段階を迎えるにあたり、中間成果報告を発表したことをお知らせいたします。ispaceが開発するランダー(月着陸船)は2022年12月11日に米国フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地からSpaceX社のFalcon9により打ち上げられた後、2023年1月20日には地球から最も離れた地点となる約137.6万km地点まで航行し、民間資本により開発された、商業的に運用中の宇宙機としては地球から最も遠い地点まで移動した宇宙機となりました。現在は月の方向に向けて航行を継続しており、航行状況に沿って、Success6となる月周回軌道投入前の全ての軌道制御マヌーバの完了を2023年3月中旬頃に、Success7となる月周回軌道投入マヌーバの完了を同年3月下旬頃に予定しています。(なお、本リリースにおける将来についての記載は現時点での計画・予測に過ぎず、今後の詳細検討等により予告なく変更される可能性があります。)

ロケットによる打ち上げ及び分離後、約2か月間の運用を経て、ispaceが設計・開発するランダーは、宇宙空間で安定した稼働が可能であることが確認されました。またispaceのエンジニアは、東京日本橋にあるミッションコントロールセンター(管制室)から運用を行い、事前のシミュレーションに沿った安定的かつ柔軟性の高い運用能力を実証しています。各サブシステム及び運用に関する詳細については下記の通りです。

■  ランダーの各サブシステムの状況について

 ●  構造設計:

打ち上げ前にSpaceX社のFalcon9ロケットと米国のRange Safety(打ち上げに関わる安全基準)による、打ち上げに必要な要件をクリアしていることを最終試験で確認しています。実際に、ロケットによる打ち上げ後、及びロケットからの分離後もランダーに損傷がないことを確認し、これにより、打ち上げ時の過酷な環境に耐え得る構造設計を実現できたことが実証されました(マイルストーンのSuccess 2相当)。その後、着陸脚の展開も問題なく成功していることを確認しています。

■  熱環境:

ロケットによる打ち上げ後、ランダーの温度が予定された水準よりも高いことが確認されましたが、運用上想定の範囲内であったため、その影響を考慮に入れつつ、問題なく運用が行われています。現在ispaceのエンジニアは、今後の航行に与える影響に加え、月面の運用時への影響について解析を行っています。一方で、ランダーの温度が予定された水準よりも高いことにより、航行中のヒーターの消費電力を抑えることができたというポジティブな効果も確認されています。この結果、特に、今後月周回軌道では電力管理の徹底が要求される想定でしたが、より柔軟な運用が可能になる予定です。

■  通信:

ロケットから分離した直後、ランダーの通信に不安定な状態が発生しましたが、その後問題を迅速に特定・解決し、通信を確立することができました。以降はランダーと地上の管制室との間で、安定した通信のアップリンク(管制室からランダーに向けて送信する通信経路)とダウンリンク(ランダーから管制室に向けて送信する通信経路)が確立されています。安定した通信状態のもと、航行に必要な全てのデータをタイムリーにダウンロードすることにも成功しています。更に、ランダーの軌道や地上局のパラメータ(アンテナの大きさやアンテナの最小仰角など)に応じて、アップリンクとダウンリンクの数値を最適化しており、効率よくデータをダウンロード、アップロードしながら運用することが可能となっています。

■  電力:

ランダーの電力については、太陽光発電パネルの発電性能が計画よりも高く推移しており、これによって将来的には月周回軌道におけるランダーの姿勢変更運用をより柔軟に計画することが可能になるなど、航行中の電力管理計画の安定化にポジティブな効果を与えています。現時点では計画外の電力消費などは確認されておらず、バッテリーの充電レベルも正常であることを確認しながらランダーを運用しています。

■  推進系:

主推進系、RCS(Reaction Control System: 姿勢制御用の推進系)共に、計画通りの性能が確認されています。主推進系のタンクの温度が計画より高くなっており(上記「熱環境」参照)、現時点で大きな影響は確認されていませんが、今後の月周回軌道投入における長時間の推進系の燃焼に備えて、現在、想定される影響の詳細な解析が行われています。また、一部のRCSスラスタが太陽からの入熱の影響で一時、計画より高温状態となりました。想定の範囲内であることを確認しましたが、潜在的な負荷を避けるため、ランダーの姿勢を調整することで該当RCSスラスタの温度を下げることに成功し、現在は計画値通りの温度で推移しています。

■  搭載コンピュータ:

ランダーに搭載している9台のコンピュータは全て正常に動作しています。1ビットメモリエラーを検出する頻度が期待よりも高い傾向にありますが、運用に影響はありません。 1台のコンピュータが再起動したことを複数回確認しましたが、ランダーの設計上の冗長性により、運用へ大きな影響はありません。全ての自律シーケンスは計画通り動作しており、日々のパラメータ更新も安定して行われています。

■  誘導・航法・制御システム(Guidance Navigation and Control systemGN&Cシステム):

ロケットから分離直後、地球・太陽・ランダーの位置の影響により、想定外のセンサーの動作が発生し、ランダーの姿勢制御性能が一時的に不安定になりましたが、その後ランダーの姿勢制御を安定化させることに成功しています。不安定な状態の中、ランダーの姿勢制御は適切に回復され、その後パラメータの調整により同様の問題が今後起こらないための回避策も講じられました。一連の対応により、姿勢制御用の推進剤が追加で消費されましたが、GNCのパラメータを更新し、計画内の燃料消費で航行できる様に推進剤の調整を行いました。なお、軌道制御マヌーバのアルゴリズムは計画通りの性能発揮を確認しており、これまでの重要な誘導制御マヌーバにおいても、問題は発生していません。

■  ランダーに搭載しているペイロード:

全ての顧客ペイロードとランダーとの通信が正常に確認され、チェックアウト作業も問題無く完了しました。顧客との確認作業も完了しており(マイルストーンのSuccess3相当)、航行中のデータは既に各顧客に提供されています。なお、チェックアウト後、一部の顧客ペイロードにおいて問題が生じましたが、顧客側とispaceのエンジニアの協働により対策を講じた結果、機能を回復させることに成功しています。また、ランダーに搭載しているispaceのカメラによる撮影、画像の取得にも成功し、地球周辺で撮影した画像については期待通りの性能を確認しています。特に、撮影した写真の1枚については、ispaceのエンジニアがランダーの姿勢を調整する操作を行い、適切にカメラを地球に向けて撮影することに成功しています。

■  ランダーの航行状況について

 ●  打ち上げ~初期運用段階 :

ロケットによる打上げ後、ランダーの初期運用(マイルストーンのSuccess 3相当)が無事に完了しています。通信安定化までの不安定な状況(上記「通信」参照)やセンサーの異常(上記「誘導・航法・制御システム」参照)により、初期運用の完了には当初の計画よりも長い時間を要しましたが、ispaceのエンジニアは各オフノミナル事象(正常の計画から逸脱した事象)にも適切に対処し、ランダーを安定航行状態にすることに成功しました。一般的に、初期運用(ロケット分離から安定状態確立まで)は宇宙機の運用において最も高い緊張感が求められるフェーズとされますが、ispaceの初めてのミッションにおいても同様でした。ispaceのエンジニアは問題を素早く特定し、限られた時間内で対処しなければならないというプレッシャーの中で、適切な対処を行いました。

 ●  軌道制御マヌーバ:

ランダーは、初回の軌道制御マヌーバ完了を含め(マイルストーンのSuccess 4相当)、既に計3回の軌道制御マヌーバ運用を成功させています。軌道制御マヌーバは航行において非常に重要な運用であり、マヌーバの実施前には毎回、入念な準備が行われます。ランダーの軌道解析、ランダーを予定軌道に導くための軌道制御マヌーバの計画、マヌーバを実現するためのパラメータセットのアップロード、ランダーへのコマンドの計画通りの送信、最後に運用の評価、という一連の手順で慎重に行われました。全ての軌道制御マヌーバが計画通りに行われ、ランダーのシステムが設計通りに機能すること及び、ispaceのエンジニアがクリティカル運用を適切に遂行できることを証明しました。

 ●  日々の航行:

ispaceのエンジニアは、長期間にわたる航行中も日々の運用作業を計画・実行し、航行中におけるペイロードの運用に柔軟に対応しました。これまでの航行中、大小様々なオフノミナル事象が確認されましたが、それらは全て、直ちに運用チーム内で共有され、迅速に解決処置が執られました。問題に対して解決策を適用する前には、常に事前のシミュレーションが行われ、運用が追加の問題を生じさせず、かつ、期待通りに機能することが検証されました。このような日々の努力の結果、現在の安定した運用が実現しており、今後の運用における信頼性を大きく高めることが出来ていると考えています。


ここまで、打ち上げから初期運用段階、軌道制御マヌーバ、日々の運行のそれぞれのフェーズにおける、各サブシステムの検証が行われてきました。ミッション1の後半段階では、月軌道への投入及び月面着陸フェーズにおいて、各サブシステムが計画通りに機能するかについての検証が実施される予定です。

これまでに得られたデータやノウハウなどの多くの貴重な成果は、直ちに後続するミッション2、アルテミス計画に貢献するミッション3へとフィードバックされ、技術と事業モデルの信頼度及び成熟度を商業化に足る水準にまで高めることを計画しています。既に、2024年に打ち上げ予定のミッション2及び、2025年に打ち上げ予定のミッション3の開発、並びにペイロード顧客との最終契約化が進捗中です。詳細につきましては、「ispace、ミッション2・ミッション3の進捗を報告」プレスリリースをご参照下さい。

■  10段階のミッション1マイルストーンについて

ミッション1では、打ち上げから着陸までの間に10段階のマイルストーンを設定しており、それぞれに設けたサクセスクライテリアを達成することを目指します。ミッションの途中で何らかの課題が発生した場合にも、その時点までに得たデータやノウハウなどの成果を正確に把握した上で、2025年までに後続するミッション2、アルテミス計画に貢献するミッション3へとフィードバックし、技術と事業モデルの信頼度及び成熟度を商業化に足る水準にまで高めることを計画しています。各マイルストーン達成の進捗状況等は適時に公開を予定しております。

■  ミッション1マイルストーン詳細

 

■ 株式会社ispace (https://ispace-inc.com/)について
「Expand our planet. Expand our future. ~人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ~」をビジョンに掲げ、月面資源開発に取り組んでいる宇宙スタートアップ企業。日本、ルクセンブルク、アメリカの3拠点で活動し、現在200名以上のスタッフが在籍。2010年に設立し、Google Lunar XPRIZEレースの最終選考に残った5チームのうちの1チームである「HAKUTO」を運営していました。2022年7月時点で総計約268億円超の資金を調達。月への高頻度かつ低コストの輸送サービスを提供することを目的とした小型のランダー(月着陸船)と、月探査用のローバー(月面探査車)を開発。民間企業が月でビジネスを行うためのゲートウェイとなることを目指し、月市場への参入をサポートするための月データビジネスコンセプトの立ち上げも行っています。
SpaceXのFalcon 9を使用し、それぞれ2022年にミッション1、2024年(ii)にミッション2の打ち上げを行う予定です。ミッション1のランダーは、2022年12月11日に打ち上げられました。ミッション1の目的は、ランダーの設計及び技術の検証と、月面輸送サービスと月面データサービスの提供という事業モデルの検証及び強化です。ミッション1で得られたデータやノウハウは、後続するミッション2へフィードバックされます。更にミッション3では、より精度を高めた月面輸送サービスの提供によってNASAが行う「アルテミス計画」にも貢献する計画です。
ispace technologies U.S., inc. は、2025年(iii)に月の裏側に着陸予定のNASAのCLPS(Commercial Lunar Payload Services)プログラムに選出されたドレイパー研究所のチームの一員です。ispaceとispace EUROPE S.A. (ispace Europe) は2020年12月に、NASAから月面で採取した月のレゴリスの販売に関する商取引プログラムの契約を獲得しました。ispace EuropeはESAのPROSPECT(月面での水の抽出を目的としたプログラム)の科学チームの一員に選ばれています。

■ HAKUTO-R (https://ispace-inc.com/jpn/m1)について
HAKUTO-Rは、ispaceが行う民間月面探査プログラムです。独自のランダー(月着陸船)とローバー(月面探査車)を開発して、月面着陸と月面探査の2回のミッションを行う予定です。SpaceXのFalcon 9を使用し、それぞれ2022年にミッション1(月面着陸ミッション)、そして2024年 (iv)にミッション2(月面探査ミッション)の打ち上げを行う予定です。ミッション1のランダーは、2022年12月11日に打ち上げられました。
HAKUTO-Rのコーポレートパートナーには、日本航空株式会社、三井住友海上火災保険株式会社、日本特殊陶業株式会社、シチズン時計株式会社、スズキ株式会社、住友商事株式会社、高砂熱学工業株式会社、株式会社三井住友銀行、SMBC日興証券株式会社、Sky株式会社が参加しています。

 

注:  ペイロードサービス中間契約は法的拘束力を有しないものであり、これらのペイロードサービス中間契約に基づき、法的拘束力のある契約を締結できる保証はありません。また、仮に法的拘束力のある契約が締結されたとしても、当該契約に基づく重量は、上記に記載された重量と異なる可能性があります。

(i) 2023年2月時点の想定。
(ii) 2023年2月時点の想定。
(iii) 2023年2月時点の想定。
(iv) 202年2月時点の想定。

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